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[函館] 蔵書展示「ユーリイカ文庫」のご案内

小笠原文次郎著『南方北海道方言の概観』

一昨年夏、遺族から小笠原文次郎氏の道南方言研究資料が函館館に寄贈されました。
手書き原稿やガリ版刷りを製本したものが14冊、下書きや覚書と思われる未製本状態の原稿用紙が400枚弱ありました。

寄贈された時点では著者について全く知らなかったのですが、調べてみると戦前に設立された北海道綴方連盟の創立メンバーの一人であることがわかりました。

小笠原文次郎氏は、明治42年青森県木造町生まれ。旭川師範学校に進学した時、自分の話す津軽弁が通じないという辛い経験をしたそうです。
卒業後、昭和4年に函館市内の小学校に赴任し、教鞭を取る傍ら言語教育の研究にも熱心に励み、全国的な教育雑誌に言語教育に関する論文を何本も発表しました。
しかし、昭和16年1月、治安維持法違反容疑で検挙されてしまいます。
生活貧困を題材とした作文を児童に書かせたことが、共産主義を普及させる教育だとみなされたのでした。
いわゆる「北海道綴方連盟事件」です。無実の罪で二年半に及ぶ過酷な拘禁生活を送ることになりました。

北海道綴方連盟事件について詳しく知りたい方は、『獄中メモは問う:作文教育が罪にされた時代』(佐竹直子著 北海道新聞社 2014年)『銃口』(三浦綾子著 小学館 1994年)をお読みください。

『南方北海道方言の概観』は、昭和11~12年にかけて函館および近郊から余市、洞爺、伊達地方までの方言を採集し、音韻・語法・単語について整理したものです。
方言採集は、著者による実地調査のほか、各地の教師仲間に調査カードを送って依頼するという方法でおこなわれました。
子どもたちに「正しい美しい言葉」(*)を身に付けさせたいと熱心に言語教育に取り組んだ著者にとって、子どもたちが実際に話している方言を調査研究したのは当然のことだったでしょう。
この本で採集された語彙は、日本語辞書として最大規模の『日本国語大辞典』に採録されています。

(*)「正しい美しい言葉」
小笠原氏が着手構想し、函館市初等教育研究会読方部の編纂を経て昭和15年に発行された『コトバノオケイコ読本』の巻初タイトル。
本文中に「日本 ノ コドモ ハ 日本 ノ タダシイ ウツクシイ コトバ ヲ ジャウズ ニ イヘナケレバ ナリマセン」という一文がある。

参考文献)鈴木信義「小笠原文次郎と『コトバノオケイコ読本』」北海道教育大学人文論究47号

2016年3月8日作成

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