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[函館] 蔵書展示「ユーリイカ文庫」のご案内

“ユーリイカ”とは、古代ギリシャの発明家であるアルキメデスが、お風呂で「アルキメデスの法則」を発見した際に叫んだと言われるギリシャ語です。
「わかったぞ!発見したぞ!」という意味です。
何万冊もある蔵書の中から「こんな資料を発見した!!」という意味と、函館の「市の魚」であるイカをかけて、函館館のとっておきの一冊を「ユーリイカ文庫」として展示します。

今回展示するのは、『國語索引アイヌ語辞典』です。ぜひ図書館に足を運んで実物をご覧ください。

謎のアイヌ語辞典

函館館に昨年、一冊の辞典が託されました。
背に金文字で「國語索引 アイヌ語辞典 函館師範學校職員生徒編纂」と入っています。
中を見ると、手書き(手稿本)でアイヌ語の用語が丹精な文字でびっしり書かれています。
全1124ページ、27cm、重量感があり、威風堂々の革装本です。

手稿本である以上、世界に一冊しかない辞典であることは間違いありません。
背表紙から函館師範学校時代のものであることはわかりますが、いったい、いつ、何の目的でこの辞典は編まれたのでしょうか・・・。

というわけで、できるだけ手がかりを探してみます。

まず、造りを見てみます。

ミゾなしの突き付け製本で、麻緒が表紙に貼り付けてあるいわゆる“くるみ製本”のようです。
見返しには本物のマーブル紙が使われています。
この様式から見て、明治か大正年代の資料と思われます。
中を見ると、経年劣化によって麻緒がページ途中で切れており、辞典のノド(見開きのページの真ん中)が見えています。
その様子から平(ひら)の部分に穴をあけて綴じる「打ち抜き綴じ(ぶっこ抜き)」と呼ばれる方法で綴じられていることがわかります。

本文に使われている紙にはウォーターマークと呼ばれる透かしが入っています。
2種類が確認できました。
一つは地球儀に「OJI PAPER / M.F.G CO」と入っており、王子製紙株式会社で作られた紙であることがわかります。
もう一種類は王冠のようなものに「M」と「P」の字が組み合わされたデザインです。両方の透かしが1ページに入っている場合もあります。
この透かしが入れられた紙が流通していた年代がわかれば、辞典が編まれたおおよその年代が特定できるかもしれません。
ウォーターマークについては改めて調べてみたいと思います。

次に内容を見てみます。
五十音索引は記載されていますが、凡例や奥付はありません。
辞典の最後に、辞典編纂に携わったと思われる複数の名前が記されていました。
それらの名前を卒業生名簿であたったところ、北海道函館師範学校の第1期生が中心であることがわかりました。
学生の在学中に編まれたとすれば、大正3~7年の間と推定されます。

数ページごと(途中毎ページごとの箇所もあり)に、編纂した学生自身の印鑑が押されています。
手分けして編纂しノートを、最終的にまとめて製本したものと考えられます。

次に、何か編纂にあたっての手がかりがないかと北方教育資料館に保管されている『函館師範学校報』をあたってみました。
すると、第二十号の「第一回卒業記念号」の“大正四年度”の記述の中に次のような記述がありました。
「今上陛下ノご眞影ヲ拝戴シテ益々忠君ノ志操ヲ深クシ同十一月十日御即位ノ御大典ニ際シテハ謹ンテ奉賀ノ典ヲ挙ケ聖壽無窮ヲ祈リ奉ル尚此機ニ於テ教員及生徒ノ協力ニヨリテ和夷對照ノアイヌ辞典ヲ編成シタルハ事聊カ曠古ノ盛典ヲ記念スルノ微衷ニ出ツ」「之ヲ要スルニ本校ノ訓育ハ日ヲ遂ウテ其歩ヲ進メ職員生徒一致協力シテソノ目的トスヲ處ヲ遂行シツヽアルモノト信ズ」

時期も重なりますので、まず間違いなくこの辞典を指しているものと思われます。
つまり、大正天皇ご即位の御大典の際に編まれた辞典であることがわかりました。
以上から、辞典の編纂は大正4年と結論づけました。

ところで内容ですが、ためしに「挨拶する」「クマ」「家」などの単語を大正4年以前に編纂されたアイヌ語辞典であるバチェラーの辞典で引いてみると、すべて記載されており、意味の表記も同じです。
ごく一部しか照らし合わせていないので断言はできませんが、タイトルをわざわざ「国語索引」としていることからも、日本語で引けるアイヌ語辞典の作成を目指したのではないでしょうか。

辞典には、単語を書いた小さな紙片がたくさん挟まれていました。
コンピューターもなかった時代に、一つ一つ単語を拾っていくという地道な編纂作業にあたった当時の学生や教員の方たちの熱意にはただただ頭が下がります。

さて、後日、改めて創立記念誌などの函館校関係資料を調べてみたところ、いくつか「アイヌ語辞典編纂」についての記述を発見しました。昭和11年に出された『創立25年史』には、以下のようにあります。
    
「アイヌ語の辭典としては、従来ジョン・バチェラー氏『AINU-ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY』があったが、日本語による索引のものはなかった。そこで、御大典記念事業の一として、國語索引のアイヌ語辭典を編纂することゝなり、職員生徒協力の下に、原辭書からアイヌ語のカードを作製し、アイウエオ順に整理して、千百二十五頁のアイヌ語日本語辭典を編纂したのである。」

この記述から、やはりバチェラーの辞典をもとに編纂されたものであることがわかりました。今からちょうど100年前に、教員と生徒の協力のもと、大変な労力を費やして編まれた1冊の辞典。図書館で大切に保管していきたいと思います。

2015年10月6日作成
2015年10月27日更新

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